イ・スヒョクの存在感

「ある日、私の家の玄関に滅亡が入ってきた」を見終わった。

主役の2人(ソ・イングク/パク・ボヨン)は然ることながら、印象に残ったのは、パク・ボヨンの上司役のイ・スヒョクだった。

氷の王子という表現が似合いそうな 、一見冷たく端正な顔立ちのイ・スヒョクから発せられる、低く深い声は、耳から入って脳をめぐった後、そのまま消えることなく次は心に落ちてきて、そして静かにフェイドアウトしていく、そんな感じだった。

通常、どんなドラマのどんなセリフでも、入ってきてすぐに消えていくものなのに、あの背中がぞくっとするような魅惑的な声は、画面を飛び越えて、こちら側を制圧する力を持っていた。

イ・スヒョクは、以前観た、「ウチに住むオトコ」や「ナイショの恋していいですか!?」にも出演していて、それぞれハマり役で存在感はあったけれど、主人公を巡る三角関係に巻き込まれる役だと、どうしても主人公を応援してしまうので、これまでその魅力を認めようとしなかった自分がいる気がする。

今回は、主人公を巡る三角関係には巻き込まれず、想っている相手と成就する可能性がある役だったことも、その存在を認め、客観的にその魅力を捉えることができたポイントの一つかもしれない。

人前では常に冷静で、取り乱した姿を見せることなく、必要最低限の言葉しか発しないのに、想う相手の前だけでは甘さを見せるというのは、ツンデレの王道で、恋愛ドラマでも欠かせない要素ではあるけれど、今回のイ・スヒョクは、ツンとデレ、冷たさと甘さの振り幅が大きく、その独特な声も合わさって、私の心は大きく揺さぶられてしまった。

もちろん、ドラマ本編も面白いし、主演の2人も、期待を裏切らない演技でドラマの世界に引き込んでくれた。

ソ・イングクは、もはや固体でもない、現象である“滅亡”という難しい役を、違和感を感じさせず、かつ、とても魅力的に演じているし、パク・ボヨンも、見ている側が共感したり、共に泣いたり、笑わせてもらったり、見た目の可愛らしさとは裏腹に、しっかりした女優の貫禄を魅せてくれている。

このドラマも、見終わった後に、見終わった達成感と、もう続きを見られない寂しさを感じる、記憶に残るドラマの一つになった。

次は、イ・スヒョクが主演のラブコメを是非創ってもらいたいと、強く願っている。